February 3, 2021
『こうさぎと夜くじら』
夜中にふと目が覚めてしまったこうさぎは、お月見の日に家族みんなで見たまんまるお月さまを思い出し、もう一度お月さまを見たくなりました。
夜は外に出てはいけないと言われていたので、寝床を抜け出し巣穴からそっと外を覗いてみました。
夜空を見上げるとお月さまの姿はどこにもなくキラキラとお星さまが輝くばかり。もみの木の向こうにある丘に行けば、お月さまが見えるかもしれない。そう思いつくとこうさぎは巣穴を飛び出し、丘に向かってかけ出していました。
もみの木を抜けて丘にたどり着き、空を見上げてみると、お月さまどころかお星さまもいない真っ黒な空が広がっています。こうさぎは急に怖くなり目をつぶってぶるぶると震えました。
ふと目を開けてみると目の前に大きな目が浮かんでいます。真っ黒な夜空は大きなくじらになっていました。
大きな優しい目はこうさぎをじっと見つめ、お乗りなさいと囁きました。こうさぎはそっと夜くじらの背に乗りました。夜くじらはこうさぎを乗せてゆっくりと泳ぎ出し、お星さまの間を抜けて深い深い夜へと潜っていきました。
お話を書き終わって読み返すと、昔飼っていたうさぎのことを思い出しました。黒い小さなうさぎは私が留守にしている間に一人ぼっちで死んでしまいました。ゲージに入れられ一人ぼっちでどんなにか寂しかっただろう。でも、あの小さなうさぎが大きなクジラと一緒にお月さまを探しているのかもしれない、そう想像すると少しだけ心が暖かくなりました。