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June 30, 2021

やまねこと発酵

やまねこと発酵

年末に「やまねこハウス」主催の発酵教室に参加した。阪急水無瀬駅の商店街の中にある「やまねこハウス」では、不定期に興味深いテーマの教室が開かれている。土、星座、キムチ、発酵など気になるテーマばかり。

 

発酵食品を作るのは好きなのに、私は発酵のしくみを全然知らなかった。微生物の働き?ぐらいの認識。教えてくれたのは現役の中学・高校の先生。教わる人たちは色んな人がいて、しっかりノートを書く人、寝てるのかと思いきや質問する人、差し入れのお菓子とみかんを食べる人、みんな実に自由気ままに振舞っている。知らない人たちばかりなのに、居心地が良すぎてちょっとびっくりした。

 

呼吸と発酵はどちらも有機物をエネルギーに変える。呼吸は有機物をしっかり分解できるから、水と二酸化炭素しか排出されない。一方、発酵ではちょっとしか有機物を分解できないから、まだ分解可能な有機物が排出される。その排出された有機物がアルコールや乳酸なのである。つまり発酵食品とは微生物の廃棄物ということになる。

 

なぜ呼吸ではしっかり有機物を分解できるのかというと、ミトコンドリアがいるから。ミトコンドリアとは、はるか昔に細胞内に住み着いた微生物のなれのはてで、細胞の外では生きていくことができない。それなのにまるで独立した生物のような振る舞いを見せる。私たち人間の体内には恐ろしい数のミトコンドリアが共生しているらしい。

     

 

余談だが、渡鳥は呼吸で排出される水を再利用することで、長期間真水を得ずに飛行することができるらしい。この話を聞いてSF小説『デューン砂の惑星』に出てくるフレメンという砂漠の民を思い出した。過酷な砂漠地帯に暮らすフレメンたちは、全身を保水スーツで覆い、全身から蒸発する水を集め濾過して飲料水にしている。確かに水には変わりないのだけど、ちょっとオエっという気持ちになる。『デューン』を読むと水と土の貴重さを再認識させられる。『デューン』はすごく面白かったのでまた改めて書こう。

 

話を戻すと、つまり発酵とはミトコンドリアを持たない微生物たちが行う有機物の分解のことらしい。微生物の種類は何億とあり、分かっているのはごく一部らしい。温度、湿度、PH値、酸素の有無、などの条件で働く微生物が変わり、排出される有機物が変わる。面白いなと思ったのは、同時多発的に様々な発酵が行われているということ。メインの発酵が何なのかで、「乳酸発酵」や「酵母発酵」といった名前になるけれど、発酵の切り替わりは緩やかでひとつの発酵だけが行われているのではない。森が成長していく過程に似ているなと思った。だから発酵食品は同じ材料を使っても、人によって場所によって味が変わる。

 

   

やまねこの先生は「良い微生物、悪い微生物というのは人間が決めたもので、多様性のある発酵が良いんじゃないかな」と言っていた。そんなやまねこハウスそのものが、多様性のある微生物集団みたいだなと思った。「やまねこハウス」の小さな発酵活動が、ゆっくりと町を変化させていく未来を感じた夜だった。