July 7, 2022
大地の再生
映画『杜人』を観て、「大地の再生」という環境改善の方法を知った。
大地も生き物のように呼吸しているので、空気と水は常に流れていなければならない。その流れが止まってしまうと、大地が荒廃し生物が生きるには過酷な環境になってしまう。堰き止められた水はどんどん溜まり、大地が抱えることのできる水の量を超えた時、土石流となって一気に溢れてしまう。「大地の再生」とは、空気と水を通すことで、健全な循環を取り戻そうということらしい。
滋賀県能登川で「大地の再生」講座が開催されると聞いて、体力に自信がないけれど思い切って参加することにした。講座では「大地の再生」を行う現場を見ながら、現状の把握、草の刈り方、木の剪定、溝の掘り方を教えてもらった。私が講座に参加した理由は、空気と水が流れていない環境を体感したいと思ったから。植物たちはどのように枝葉を伸ばしているのか、どんな種類の生き物がいるのかを知りたかった。
能登川は琵琶湖の東に位置し、西日本、東日本、日本海式、太平洋海式の4つの気候が混ざりあっている。そのため本来なら生態系は非常に豊かで、様々な動植物が生息しているらしい。しかし私は現場でたった数種類の生き物にしか出会わなかった。中でも印象的だったのがクモ。同じ種類(おそらくコクサグモ)のクモの巣が、地上2m以内至る所に張り巡らされていた。庭木や沿道の植物たちは、まるで雪が降り積もったように網がかかっている。
水がうまく流れていない水路にはコバエが飛び交っている。クモはこのコバエを食べているのかな?腐りかけた低潅木では群がるシロアリを見た。民家の石垣にはアシナガバチがいた。この日、私が出会った虫はたったのこれだけだった。鳥も爬虫類もほとんど見かけなかった。7月上旬の暑い日だったのでぼーっとしていて、注意散漫だったとしても、あまりに生き物の数が少ない気がする。
循環が止まってしまった場所には、「グライ土壌」がよく見られる。現場の水路にもグライ土があった。とても臭い。「グライ土壌」では嫌気性の微生物が働き、植物に有害なガスを発生させていて、これが悪臭の正体。この一見どうしようもなさそうな土は、掘り返して酸素に触れさせると、とても良い肥料になるというから不思議だ。
現場はかなり深刻な状況らしく、山全体にかなりの水が溜まっているらしい。このエリア全体が、空気と水の流れが滞った大きな澱みになっている。澱みに溜まるヘドロやアク、コバエやクモ。澱みに集まる生き物たちは空気と水がない中で、循環を作り出そうとしている。異常な数の蜘蛛の巣に覆われたツゲの木を見て、環境の異常さに恐ろしさを感じると同時に、生き物たちの必死さに感動した。
草刈りが進み風が動き出すと、1匹のハグロトンボが飛んできた。優雅に飛ぶ姿を見ていると、この場所に受け入れてもらえたような不思議な気持ちになった。